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調査研究論文の要旨

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日米のベンチャー・キャピタル投資の「法と経済学(law & economics)」的側面からの考察

  • ベンチャー企業(以下、VB)はイノベーションと雇用創出の源泉として日本経済の活性化のために重要な役割を担う。そのVBに対してリスク ・マネーを供給するベンチャー ・キャピタル(以下、VC)は、投資先VBを育成し、最終的にIPOもしくはM&Aによってエグジットし機関投資家に対する投資収益を最大化することが使命である。
  • コースが端緒を開いた「企業」の理論は、ウィリアムソン、アルチアンとデムセッツ、ジェンセンとメックリング、ハート、岩井克人を代表とする先行的な研究により発展した。
  • 本稿では「企業」を、企業経営の裁量権(オートノミー)を求める人的資本の拠出者と、経営者のモニタリングの権限を求める物的資本の拠出者の相互の不安を軽減し資本の拠出を動機付ける交渉の仕組として描写する。この「動機付け交渉」の中で「果実(付加価値)の分配」と「支配の分配」について、交渉が行われる。前者は事業継続中の配当等や事業清算時の残余財産の分配等 が、後者は議決権や取締役の分配等が交渉の争点になるが、会社法等の規制が交渉当事者のインセンティブに影響を与える。企業(株式会社)は、交渉のパターンによって、モニタリング・イメージ、ベクトル・イメージ、(2チーム間)交渉イメージの3つに分かれ、それらが並存する。「企業」としてのVBは、経営者(すなわち、起業家)が拠出する人的資本の企業特殊性が高いため、物的資本の拠出者であるVCとの関係において(2チーム間)交渉イメージが当てはまる。
  • シリコンバレーは、革新的な事業を行うVBを継続的に再生産する生態系、つまり 「ベンチャー・ハビタット」 として機能している(シリコンバレー ・システム)。このシステム内では、機関投資家、ベンチャー・キャピタリスト、起業家によって構成されるベンチャー・キャピタル・ファンド、大学、大企業、法律事務所等の様々なプレーヤーの人的ネットワークが相互に接続し、流動的労働市場の下でエクイティのインセンティブをベースにリスクを分担している。リスク分担、すなわち支配と果実の分配の交渉方法として、資本多数決原則を修正した取締役の分配、種類株式を活用した段階的投資によるスウェット・エクイティ等、さまざまな工夫が投資契約に織り込まれている。
  • 日本のVC投資を欧米と比べると、投資金額の規模が小さい。これには日本のVBが内需型の業種が多く、世界展開を目指すシリコンバレーのVBに比べて必要とする資金量が少ないことが一因と指摘されている。また、VCファンドへの年金基金の出資比率が低く、エグジットとしてIPOを実施した社数も少ない。さらに、収益性も低く、年金基金の出資が少ない一因になっている。日本では近年アーリー・ステージ中心に投資するVCファンドが減少している。
  • 日本のVC投資の特徴には、買戻条項が利用されることや人事政策や自社から取締役を派遣した場合の株主代表訴訟、対第三者責任や使用者責任に対する懸念から、VC会社が取締役ではなくオブザーバーを派遣することがある。また、米国との相違点として、日本では、ハンズ・オフのポートフォリオ投資、経営権の安定への起業家の固執、種類株式とスウェット・エクイティの未普及、IPOに偏ったエグジットといったことが見受けられる。その他に、雇用の流動性の低さとリスク回避的姿勢と失敗に対する非寛容性といった要因がVC投資の慣行に影響を及ぼしている。こうしたことが絡み合っており、VCとVBの間での信頼関係はシリコンバレー・システムのように適切に醸成されているとは言い難い。
  • こうした状況を改善するために、一つの方法として種類株式の積極的活用が提案されている。果実の分配と支配の分配を円滑に行うためには、シリコンバレーのVBとVCの間で行われているような段階的投資とスウェット・エクイティのべスティングが有効と思われるが、これを行うには種類株式を活用する慣行が定着することが必要と考えられるからである。この慣行は、日本のVBとVCの両方にみられるリスク回避的姿勢をリスク中立的な方向に動かす効果もあると見られる。さらに、雇用の流動性を高める効果もあろう。
  • 日本の大学・研究機関からもいわゆる「大学発ベンチャー」の起業がおこり、特定の大学と強固な連携体制を構築し、研究成果の事業化のために、ハンズ・オン投資を行う独立系のVCも現われている。こうしたことに加えて、VC投資への種類株式の活用を起点として、VC投資に関わるプレーヤーのインセンティブ・メカニズムを変えることによって、日本独自の、あるいは東京型のベンチャー・ハビタットを成熟させることが日本経済の活性化にとって重要であると考えられる。

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