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調査研究論文の要旨

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「企業の社会的責任(CSR)」に関する研究―中小企業への適用についての考察―

  1. 「企業の社会的責任(CSR)」に対する注目が高まっている。その背景には、グローバリゼーション、インターネットの普及に伴うNGOsのプレゼンスの拡大、SRI(社会的責任投資)の普及、企業不祥事の続発、先進各国の財政状態の悪化による公共的活動での官民連携等があり、CSRに関する欧州マルチステークホルダー・フォーラムや英国での会社法改正(会社取締役のステークホルダーなどに対する配慮義務を明文化)など、欧州で議論が進み、社会的責任の国際規格であるISO26000が2010年に作成された。
  2. CSRは「持続可能な発展」が目的であり、 第一の意味合いは「トリプルボトムライン」である。これは、企業活動を「経済(=利益)」のみならず、「環境」「社会」を加えた三つの面からバランスよく評価し、各側面を向上しようとの考え方である。 関係者は、「株主だけでなく、多様なステークホルダーの利益を尊重・考慮すること」を第二の意味合いと考えている。ISO26000は、企業のみならず全ての組織を対象とする社会的責任(SR)の規格である。途上国での人権侵害と環境汚染が意識され、多様な取り組みを推奨している。第三者認証を目的としない指針であるが、性格的にはマネジメントシステムに近く、今後普及するか注目される。
  3. CSRに該当する活動は「外部性」を伴うため、標準的な経済理論や会社法理論では、(特に所有と経営が分離した株式公開)企業がCSRに取り組むことを説明することが難しい。 経営学の分野では、自社の事業にCSR、あるいはCSV(ポーターが提唱するCSRを拡張した概念)を統合して推進すべきとの論調が中心であるが、外部性による限界も指摘されている。 しかし、ソーシャル・キャピタル論や行動経済学を援用すると、部分的にはCSRを説明しやすくなる。
  4. 中小企業のCSRに関連した動きをみると、EUでは、大企業のサプライチェーン、あるいは公共調達を通じて中小企業にCSRを一層の普及する戦略が構築された。中小企業の日常的活動の実態を反映した促進策が必要であり、欧州の中小企業団体は強制ではなく自発性を重視すべきとしている。ISO26000では、中小企業のさまざまな制約を考慮して、漸進的取り組み、業界団体や地域団体などでの集団的取り組み、CSRに精通した大企業や中間支援団体等との連携も選択肢としている。 国内では、江戸時代の商人の規範や渋沢栄一などにCSRに符合する思想がみられる。近年、経済団体が作成した行動規範やISO26000のJIS規格化といった中小企業に対するCSRの促進につながる可能性のある動きがみられる。
  5. 多くの中小企業では、所有と経営が一致している。こうした特性もあり、アンケート調査からは、社是・社訓・経営理念に基づいて、本業を軸に、地域社会への貢献を中心としたCSRに内発的に取り組んでいることが分かる。また、ソーシャル・ビジネス的に取り組んでいる企業の存在も示唆されている。CSRの自己評価からは、網羅的ではないものの特定の分野でのCSRに取り組んでいる企業が多いとみられる。企業イメージの向上はCSRに取り組むメリットとなるが、売上増等の経済面でのメリットは小さく、コスト増と人手の不足がデメリットと考えられている。
  6. 日本では中小企業の経済的基盤が揺らいでいることもあり、CSRの支援策として、減税、補助金といった経済的支援が必要との判断が多い。 また、CSRに関する情報が不足しているため、情報提供が必要との判断も多い。さらに、サプライチェーンに属している企業では、販売先からの取引上の優遇を必要と判断している。減税・補助金は「外部性」への対処に有効であるが、財政負担が制約となる。大企業がサプライチェーンを通じて中小企業にCSRを要請することは有効と思われるが、その成果の大企業・中小企業間での分配(取引上の優遇)は必ずしも容易ではない。中小企業には、各種の支援策を組み合わせて、効率性を阻害せずにCSRを促進する必要がある。ただ、ソーシャル・ビジネス的にCSRに取り組んでいる中小企業も少なくないため、多様なステークホルダーと連携し、市民社会を成熟させることによって、持続的発展や社会的包摂に貢献することが期待される。なお、消費者への教育と政府の役割も重要である。

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