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調査研究論文の要旨

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「China+1」時代の中小企業のグローバル化支援
-直接投資の実態と海外での法務リスクを中心とする考察-

〔第I部〕中小企業のグローバル化の必要性と「China+1」の直接投資の実態

  1. 中小企業の海外展開の必要性としては、人材の確保、為替リスクへの対応、納入先企業の国際的サプライチェーンの構築、市場の開拓等がある。海外直接投資の実態をみると、進出国は現状では中国が圧倒的に多い。今後についても中国に対する進出意欲が根強いが、タイ、インドネシア、ベトナムといった「China+1」の動きを視野に入れている企業も一定規模で存在している。
  2. 経済産業省の「海外事業活動基本調査」を中心に、海外現地法人の経営実態を国内本社の規模別にみる。2011年度にかけての現地法人数の増加を主導したセクターは中小企業と大企業・非製造業であった。売上高を指数化すると、中小企業はドル換算ベースでは2011年度に2006年度を8割近く上回っている(大企業の増加は2割前後)。経常利益をドル換算ベースでみると、ほとんどの規模・業種で2011年度は2007年度並みの水準を回復するか、上回っている。設備投資をみると、ドル換算ベースでは、2006年度から2011年度の中小企業の伸びが大企業を上回っている。限界粗資本装備率(=設備投資÷従業員数)をみると、中国(香港を含む)は相対的に労働集約的な製品の生産拠点、ASEAN4は世界戦略車の生産拠点、NIES3は高機能の素形材等の供給基地となりつつある。その他アジアの装備率は中国より高い。研究開発費の2001年度からの伸び率は、全産業と製造業では、中小企業が最も高く、次いで中堅企業、大企業の順になっている。
  3. 次に、海外展開企業の国内本社の経営実態をみる。売上高と1社当たり平均売上高をみると、ともにリーマンショックで激減し、その後緩慢な持ち直しあるいは横這い傾向を示している。現地法人からの受取収益についてみると、出資所得を配当金と現地での再投資に戦略的に分割している。収益の還流に関しても「China+1」が意識されている。ロイヤルティの主要な内容である特許料等使用料をみると、2003年に黒字転換してから増加基調で推移し、2013年に初めて1兆円を超えた。2004年度には配当金はロイヤルティを下回っていたが、2011年度には前者が後者を上回っている。中小企業・製造業では配当金が概ね増加傾向で推移している。今後の海外戦略をみると、「海外事業体制を拡充する」の比率が、「中国」では2年連続で低下する一方、「ASEAN4」 、「NIES3」、「その他のアジア」及び「その他の地域(北米、アジア、ヨーロッパ以外)」では上昇傾向で推移している。中小企業では現地法人の新設・拡充に対して感じるリスクの高さは、①中国、②その他のアジア、③ASEAN4の順になっており、「China+1」の志向が明確化している。
  4. 海外からの撤退の状況をみると、平成23年度の中小機構の調査から中小企業で直接投資を実施した経験のある企業の内、撤退(移転を含む)した経験のある企業の比率を試算すると、3~4割が撤退を経験しており、1割超が撤退後直接投資を再度実施していない。中小企業の海外への(再)投資を促進するためには、円滑な撤退の道筋を整備すべき筋合いにあり、これには現地での法務への精通、あるいは法務専門家のサポートが必要であるものと推測される。中小企業での平成20年度から23年度にかけての撤退の理由の変化をみると、「現地パートナーとのトラブル」、「重要取引先の移転・撤退・倒産」「税制・法制度の問題」、「労働争議等の発生」等、海外での法務リスクに関連する項目で比率が上昇している。

〔第II部〕「China+1」時代の中小企業の海外展開支援の高度化

  1. 中小機構の調査で国際化促進の重要事項をみると、「法令・制度に関する事」が第2位である点が重要である。加えて、「人事・労務に関する事」、「模倣品対策に関する事」といった法務に関連する事項が一定の比率で重要と考えられている。直接投資については、「法令・制度に関する事」が5割弱で首位になっており、他の形態の海外展開に比べて法務リスクが高いと中小企業は認識している
  2. 中小企業白書によると、直接投資を開始するために必要な条件の第2位には「進出国の法制度や商慣習の知識があること」が挙げられている。現地法人が直面している事業環境面の課題・リスクをみると、「法制度や規制の複雑さ、不明瞭さ」、「知的財産の侵害、模倣品の増加」が比較的多く、現地人材の労務管理も加えると、やはり法務関連事項が進出後にも課題・リスクとなっている。
  3. 法制度・商慣行一般に対する懸念が表明されていることについての先行研究等での注目の度合いはそれほど高くな い。しかし、撤退の状況等と「China+1」の中小企業での加速の可能性も考慮すると、異なる国での多様な法務リスクへの対応が必要となる。本稿では、直接投資に対する総合的な支援策とその中での海外法務の支援体制の高度化の必要性を論じる。
  4. 「China+1」諸国での直接投資を念頭に置いて、中国を例にとり海外での法務リスクについてみると、1990年代から急速に法律が整備されたが、なお人治から法治への過渡期にあり、法務リスクの管理が重要である。そのポイントは法令の制定や改正を見落とさないことと、法令の優劣関係を知ることであり、専門家からの情報をタイムリーに取得することが有効である。現地法人の設立時、操業中、撤退時にそれぞれ特有の法的手続きとリスクがあり、その一部を見ただけでも、多様な法務リスクに対する体制整備の難しさが分かる。法務リスクとしての新興国の非関税障壁をみると、現地法人の事業上のリスクとなっている可能性がある。問題は、現地での操業中の外資への差別的待遇である。そもそも、税制や規制が未整備であり、行政判断が不透明な国や日本への送金に上限額が設定されている国もある。また、国ごとにリスクの高低が異なる。総じて、法的リスクを認識することの重要性が窺われているが、これは、21世紀入り後直接投資が活発化している非製造業においても同様である。
  5. 海外法務に関する専門家に対して行ったインタビューからは、①中小企業の海外でのトラブルの事例では、内容をほとんどノーチェックで相手が提示した(実際には不利な)条件の契約にサインしている場合が多い、②進出時に相談することもある、金融機関やコンサルタントの法務に関する専門性と提供するサービスの質・内容は不明である、③費用対効果を考えると、中小企業も必要な費用を予算化し、法律の専門家の支援を受けて有効な法務の体制を整備することが必要等の指摘がなされた。
  6. 中小企業にとってより実効性の高い海外展開支援策の高度化として「海外展開一貫支援ファストパス制度」が2014年2月に開始された。これは、国内各地域の企業支援機関が、自らの顧客企業に対して海外展開の支援を行う際に、外務省(在外公館を含む)、ジェトロ等海外展開支援に知見がある機関の協力も得ながら、有望企業への海外展開支援を円滑に進めるものである。重要なのは、紹介元支援機関の①企業の潜在的な海外展開ニーズを発掘する感度と、②実際の支援開始を仲介する際のスピード感であろう。ファストパス制度での法務リスクの支援体制についてみると、紹介先支援機関として日本弁護士連合会が参加している。ただ、中小企業のリスクや費用に関する感覚を考慮すると、リーガル・フィーの一部を公的な補助を行うことも、海外展開の促進には有効かもしれない。

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