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調査研究論文
中小企業の金融に関する調査研究
調査研究論文の要旨
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中小企業の財務構造の変遷
本論は、バブル崩壊後の中小企業の財務構造がどのように変遷していったのかについて、この間の経済 ・金融情勢の変化を踏まえて、とりまとめたものである。
バブル崩壊後のわが国は「失われた10年」とも「15年」ともいわれる厳しい経済状況が続き、中小企業も厳しい経営を余儀なくされてきた。 しかし、1990年代と2000年代とを比較すると、中小企業の財務構造は1990年代末頃を境に変化してきている。
中小企業の財務構造について、従来から指摘されているのは借入依存度の高さであったが、中小企業の資金運用 ・調達構造をみると、特に調達面で、やや低下傾向にはあるものの依然として借入依存度が高いことと、一方で1990年代末の金融システム不安を境に自己資本の構成比が高まってきたことが特徴として挙げられる。
さらに企業の財務分析の手法を用いて、より詳しく中小企業の財務動向を分析した。代表的な指標としては、「収益性」、「安全性」、「成長性」、「健全性」、「生産性」などがあり、また、中小企業は借入依存度が高いことから 「借入債務償還能力」も重要な指標である。 これらの指標について、主に1990年代と2000年代を比較して分析した。
各指標の動きをまとめてみると、中小企業の財務指標は1990年代に軒並み悪化したが、2000年代には悪化から概ね改善に向かった。特に自己資本比率をはじめとする安全性の指標が目立って改善しており、キャッシュフロー、借入債務償還能力なども改善傾向が続いた。 一方、 中小企業の生産性は1990年代まで改善したものの2000年代には逆にやや悪化しており、また収益性も大企業ほどには改善していない。
バブル崩壊後 、まず1990年代には「バランスシート調整」が企業の大きな課題となり、そして1990年代末には「3つの過剰」が指摘され、2000年代に入ると「3つの過剰」の解消が企業にとっての大きな経営課題となった。こうした中、中小企業の財務構造は、1990年代に悪化し、2000年代には改善した。 特に自己資本比率など安全性の指標が改善したことは 、中小企業の経営努力の成果であるといえる。 その一方、生産性、収益性などフロー面の改善は今一歩の状況である。総じて中小企業は、資産負債構造などストック面では改善してきたが、 収益を生み出すフロー面ではいまだ1980年代の水準に回復しておらず、 さらに生産性が悪化しているなど課題が多い状況にあるといえる。
「バランスシート調整」と「3つの過剰」の解消はいずれも後ろ向きであったが、これからの中小企業は、生産性を高め、収益力を強化していくことが必要であると思われる。
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