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調査研究論文
中小企業の産業構造に関する調査研究
調査研究論文の要旨
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中小企業とM&A
M&Aに係る法制面等の環境整備は進んでおり、手続きの負担軽減が図られ、柔軟かつ迅速な対応が可能となった。M&Aに関する研究も進んできており、大企業を中心にM&Aを戦略的に活用しようとする動きが定着してきている。
中小企業のM&A市場についてみると、その規模は大きいとは言えない。地域別にみると東京を含む大都市 圏に集中しており、地方圏の中小企業が成約に至るケースは少ない。売却目的については、「後継者不在」が最も多いが、戦略的な目的も少なからずみられる。例えば、業界再編等を見据えて有力企業の傘下に入った事案などもある。一方、買収目的については、「既存事業の強化」が過半数を占めており、同一地域、近隣地域企業をターゲットとする場合が多い。事例の目的は、商品、顧客、市場・商圏の拡大、隣接業種への拡大、新規事業進出など多岐に亘っている。M&Aの手法についてみると「株式譲渡」が過半数を占めている。次いで「事業譲渡」となっており、この2つで約90%を占めている。
近年中小企業の「親族外」承継が増加するなかM&Aに対する関心が高まってきている。過去の調査結果からは、中小企業はM&Aを事業承継上有効な手法と認識しているものの、半数近くは抵抗感を持っていること、手続きに際しては専門的な知識や情報の不足をカバーするために仲介機関などのサポートを求めていること、企業売却の際には価格よりも役員・従業員の雇用確保・処遇を優先に考えており、信頼できる先に譲渡していることなどが確認できた。なお、M&A取引をサポートする仲介機関は、中小企業の特殊性に配慮しつつ合理的な価格による売買に結びつける役割を果たしている。
中小企業のM&Aに対する抵抗感は根強いものの徐々に薄れてきている。また、経営者の高齢化が進んでいることから潜在的な売却ニーズは高まってきている。ただ、時間や手数料を負担に感じる等のネックがあり実際の「情報」提供にまで至らない場合も多いとみられ、成約件数は伸び悩んでいる。こうしたなか最近では一部の仲介機関で事務の簡素化により手数料負担軽減を図ることで、中小企業のM&A市場を拡大しようとする新しい試みがみられる。今後こうした動きが拡がっていくことが期待される。
中小企業が「事業承継」を円滑に進めていくためにM&Aを積極的に活用することは当然である。ただ、中小企業にとってもM&Aの活用用途には様々な可能性がある。より視野を拡げて「事業承継」問題以外のM&Aの戦略的活用の検討も有意義であろう。
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