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調査研究論文
中小企業の産業構造に関する調査研究
調査研究論文の要旨
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エネルギー問題が中小企業に与える影響
近年、原油価格高騰や地球温暖化問題、さらにわが国においては東日本大震災が起き、これらを背景にエネルギー資源の制約が厳しくなってきている。本論は、わが国のエネルギー消費や供給の実態、再生可能エネルギーの動向等を基に近年のエネルギー問題と中小企業との関係を分析し、エネルギー問題が中小企業に与える影響を明らかにしようとするものである。
わが国のエネルギー消費は、バブル崩壊後、2000年代に入っても増え続けている。ただ、産業部門(製造業等)では省エネルギーを推進してきたこともありエネルギー消費はあまり増加せず、増加したのは民生部門(非製造業等、家庭)が中心であった。エネルギー源別にみると石油が相対的に減少しており、増加の主役は都市ガスと電力である。
中小企業のエネルギー消費を推計すると、産業部門では大きく減少する一方、民生部門は増加し、中小企業全体では減少してきた。エネルギー消費全体の動きとは逆であり、中小企業が主に内需に依存していることを勘案すると、バブル崩壊後の経済の長期にわたる停滞が大きく影響したのではないかと思われる。
わが国のエネルギー輸入依存度は92%であり、世界のエネルギー情勢からは目を離せない。現在、世界には膨大な量の非在来型石油・ガスが存在するといわれており、原油が100ドル/バレルを超えて以降、こうした新エネルギーの開発が進みつつある。
わが国のエネルギー政策は、石油危機以降、石油代替の促進が大きな課題とされ、新エネルギー、再生可能エネルギーの開発や省エネルギーを推進する方向へと進んできた。再生可能エネルギーは、まだコスト的に石油・石炭・ガスに比べ割高であるが、先行き採算レベルを達成する可能性が高まってきている。
エネルギー問題が中小企業に与える影響については、非在来型石油・ガスや再生可能エネルギーの動向を踏まえれば供給面の制約はあまり大きくないと思われる。しかし、それは一方で、これからのエネルギー価格は過去のようには安くならないということでもあり、これらを前提として中小企業のエネルギー問題を考えていく必要がある。
また別の観点から見れば、再生可能エネルギーは規模が小さく地方に分散して存在するという特徴がみられ、これは全国各地に存在する中小企業にとっては再生可能エネルギー分野への参入が容易であるともいえるものである。
中小企業にとってエネルギーコストの上昇が問題なのは、利益率の水準が低いために、コストの変動により利益率が大きく上下してしまうこと、損益分岐点比率が高いために赤字に陥りやすいところにある。また、エネルギー価格上昇の影響の度合いや受け方が業種によって異なることも特徴の一つである。自己資本比率を高めて抵抗力をつけてきた中小企業とはいえ原油価格が高い状況では徐々に体力が奪われるであろう。体力がある間にストック面だけでなくフロー面、すなわち収益力、生産性を高めていくことが中小企業にとっての喫緊の課題である。さらには新たなビジネスチャンスを再生可能エネルギーに求めることも自立、再生に大きな効果を生むものと思われる。
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