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調査研究論文
中小企業の産業構造に関する調査研究
調査研究論文の要旨
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地域機能継続に果たす中小企業の役割
本稿では、はじめに中小企業の事業継続リスクへの対応状況や、BCM(事業継続マネジメント)の基本的な考え方などについて確認する。次に地域機能の維持・強化に向けた取り組みや考え方を整理し、自らの事業と地域機能を守っていくために中小企業に期待される役割について分析する。そして最後に事例を交えながら、事業の存立基盤となる地域機能を守っていくために中小企業が果たすべき役割や今後の可能性について考察を試みる。
中小企業の約6割はBCP(事業継続計画)の必要性を認識しており、平常時においてもBCPを策定することによる経営上プラスの効果は大きいとみている。しかしながらBCMの取り組み状況をみると、BCP策定ノウハウの不足、重要性を認識していない、人手不足などの理由により、BCPを策定している中小企業は15.5%と少数にとどまっている。特に小規模先ほど対応が遅れている。
地域機能継続を図るためには、「自助」の面では地域内個別企業のBCMへの取り組みの強化や、地域住民の防災リテラシーの向上、「共助」の面では関係者間の連携の強化、「公助」の面では法制度の整備や行政の業務継続計画の実効性向上などが求められる。そしてそれぞれには限界があることから、各々が相補性を発揮できるよう総合的な視点に立脚し、地域の強靭化を進めていくことが課題となってくる。
中小企業は、その多様性、地域密着性、機動性、柔軟性などの特性を強みとして発揮することで、地域機能維持活動に積極的に関与していくことが期待されている。特に、「共助」の面では、地縁的なつながりや同業者などとの多様なネットワークを活用することで「連携」のキーマンとなることが期待されている。そして、「自助」、「共助」に取り組む際には「公助」とのバランスを考慮した柔軟できめ細やかな対応ができればなお望ましいであろう。
事例に挙げた中小企業は、地域コミュニティの一員としての自覚と強い責任感を持ち、自らの力量・特性とその限界を適確に把握したうえで自発的に「自助」と「共助」に取り組んでいる。こうした取り組みが「公助」との相乗効果を生んでいる例もみられる。また、そのアプローチについてみると、はじめから完璧を期すのではなく、自分の出来ることから出来る範囲で、試行錯誤を繰り返しながらも着実に歩を進めている。
中小企業の事業と地域の機能は密接な関係にあり、切り離して考えることができない。中小企業が自らの事業を守っていくためには、その存立基盤である地域の機能を維持・継続していくことが重要になってくる。一方では、中小企業も地域社会の一員として地域を守っていくための社会的責任を果たすことが求められている。
中小企業が自らの持ち味を発揮し、関係者間のコミュニケーションを強化することを通じて、地域機能を守っていく活動に積極的に取り組んで行くことを期待したい。
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