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調査研究論文
中小企業の金融に関する調査研究
調査研究論文の要旨
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フィンテック(FinTech)の現状と中小企業金融に対する影響
銀行の資金仲介機能の不全等を背景として、フィンテック(FinTech)の関連サービスが発展している。具体的には、オンライン決済やクラウドファンディング、人工知能(AI)による資産運用の助言、個人や規模の小さい中小企業への融資等のサービスを提供するベンチャー企業(FinTech VB)が台頭している。銀行固有の機能と考えられてきた資金の決済と仲介を初めとして、FinTech VBは様々な銀行業務をアンバンドリング(分解)しつつある。
世界的には、個人向け金融、資金決済、資産運用、中小企業金融等の分野でFinTech VBによる銀行業務の「破壊(disruption)」が進展すると予想されている。これに対して、欧米の大手銀行はフィンテックへの投資を増やし、オープン・イノベーションによってICT関連産業の大手企業に対抗している。一方、日本では銀行が行っている中小企業取引をFinTech VBが「破壊」する脅威に対する金融関係者の危機感が世界全体に比べると低い。
日本の中小企業金融でのフィンテックの状況をみると、決済機能については、既にPayPalが国境を跨ぐ電子商取引(EC)で高い地位を得ている。また、国内送金のXML電文への移行による金融EDIの構築等、機能の高度化が検討されている。
仲介機能に関するフィンテックの状況をみると、クラウドファンディングの普及は遅れているものの、EC関連の大手ICT企業が「商流」のビッグデータをAIで解析して、決算書を分析せずに自社の市場に出店・出品している企業に対して、銀行をはるかに上回るスピードで仕入資金の融資を行っている。
AIによる与信審査(AI審査)の中小企業向け融資への適用が銀行の経営課題となるだろう。現時点ではAIによる審査の完全な自動化は難しいが、融資先の倒産可能性の警告等による省力化が可能になる。AI審査の精度を向上させるために、銀行は財務データと金融EDI内の「商流」のビッグデータを組み合わせる必要があるだろう。
中小企業の上位層や中堅企業に対する融資等については、AI審査の警告の精度には限界があり債権保全措置の必要性が残る。AI審査の適用が困難なもう一つの分野として、VBへの資金供給がある。また、個人自営業者や小規模企業への経営支援もAIには難しく、銀行が力を発揮できる分野であろう。
中小企業金融の将来を展望すると、日本の銀行にはAI審査の本格的な検討と同時に、ICTを活用した保全措置の高度化・効率化も求められる。加えて、小規模企業等への経営支援やVBへの資金供給で存在感を維持するために、これらの分野に精通した人材の育成等も必須になるだろう。
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