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コーポレートガバナンスと中小企業
―中小企業の生産性向上を促す「攻めのガバナンス」―
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- 株式会社(以下、会社)は「有限責任」という特権を通じて株主から小口・多数の資金を集めてリスクのある事業を行う「資本主義経済のエンジン」としての役割を担っている。しかし、私益の追求やリスク回避によって経営者が株主の利益を損なうエージェンシー問題が生じることがある。コーポレートガバナンスは、株主に経営者を監督させ利益の最大化を目指す経営を促すための枠組みであり、その現代的な目的はイノベーションによる生産性の向上である。主要な仕組みは、取締役(会)・株主総会等の会社機関、取締役の義務、情報開示、市場メカニズム等であるが、実効性の鍵は「自己監査」の構造の排除である。
- 中小企業は所有と経営が未分離でありエージェンシー問題が起きず、意思決定の迅速性が主要な長所である。一方、リスク耐性の低さ、株主のモニタリングが自己監査になること、情報開示に対する認識の低さが問題点である。中小企業特有のガバナンスの仕組みとして、簡素で選択肢の多い会社機関、サプライチェーンの下流からの監督、本家・分家間の相互牽制、婿養子への事業承継等がある。
- 1990年代末期以降、メインバンク制度の有効性が低下したことなどから、中小企業は自己資本の増強と金融機関借入への依存度の引き下げという財務戦略を採用し、リスク回避的な経営を行っている。こうしたこともあり、日本の中小企業の生産性は大企業と比べても、国際的にみても低く、コーポレートガバナンスの改善による生産性向上が求められている。リスクテイクを促し生産性を引き上げるためには、①英国の電子的な決算書の登録・開示のシステムに範を取る公告・開示の強行法規化とそれを通じた様々な債権者による社外からのガバナンスの強化、②公的支援機関等の広義のステークホルダーによる支援の強化、及び、③銀行出身幹部の派遣等を通じた銀行の助言機能の強化等、中小企業にとっての「攻めのガバナンス」が必要である。