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調査研究論文
中小企業の産業構造に関する調査研究
調査研究論文の要旨
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中小企業のIT活用と生産性
少子高齢化・人口減少はわが国の構造的な課題の一つである。中小企業においては、近年急速に人手不足・人材不足感が高まってきている状況にあり、一方で中小企業の生産性は大企業に比べて低い水準にとどまっている。ITの活用は、将来に向けて中小企業が少子高齢化・人口減少などの構造的な課題の解決を図っていくための有力な手段となろう。ITを活用することにより、中小企業がその生産性を高め、収益力の向上を図っていくことは、わが国経済全体の活性化にも貢献する。
しかしながら、中小企業のIT活用は総じて遅れ気味である。IT活用の遅れが大企業との生産性格差につながっている可能性もある。まずIT戦略については、中小企業はまだ策定途上にあるものの、IT活用の重要性は十分認識しており強化する方向としている。一方で実際のITの活用については中小企業の取組みの遅れが目立つ。IT活用の段階(ITステージ)が進んでいる企業ほど労働生産性が高まる可能性があり、中小企業の取組みの強化が望まれる。また、総じて中小企業では大企業に比べ人材育成面で大きく後れを取っており、人材育成への関心も薄い。
売上や付加価値の拡大を実現するためのIT活用に関わる取組(攻めのIT)についてみると、中小企業の過半数が重視しているが、外部との連携や外部サービスについてはあまり活用されていない。またIT要員を置く余裕もあまりない。攻めのIT投資に取り組む企業の方が、労働生産性が高い可能性があることが指摘されており、元来、経営資源に乏しい中小企業においては、ITの活用にあたり積極的に外部との連携や外部サービスの活用を図ることで「攻めのIT」を実現し生産性の向上を目指すことが望まれる。
なお企業がITの活用を進める上での大きな課題として情報セキュリティがある。情報セキュリティ対策については、中小企業の対策の遅れがやや目立つ。専門家不足、ノウハウ不足に対処するためにも、中小企業は、コスト面に留意しつつ積極的に外部利用を検討していく必要がある。
IT活用は、現在中小企業が抱えている人手不足・人材不足と低生産性の2つの課題を解決できる可能性を有している。しかしIT等の活用を進める上では、ITに代替される既存の雇用が喪失し、その労働者が新たな職場に円滑に移動できないなどの雇用のミスマッチが生じる可能性がある。円滑な労働移動により、ITで代替されない高付加価値分野の人手不足を補っていく必要がある。そのためには中小企業も含めて社会全体で、新たな労働供給の源となる女性や高齢者の就業環境を整えていくのはもちろんのこと、IT等を活用した高付加価値分野で活躍できるような人材を育成することや、労働市場(雇用)の流動性を高めていくことが求められる。
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