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EU離脱国民投票後の英国の中小企業政策-低生産性企業の底上げ政策と観光振興政策のケーススタディ-
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- 英国の「2015年中小企業、企業家精神、雇用法」では、ヤング報告書の提言の具体化とともに、コーポレートガバナンスの改革やスタートアップ(起業・創業促進)に重点が置かれ、スケールアップ(企業・事業・雇用の規模拡大)に対する視点はやや薄かった。しかし、2016年の国民投票でEU離脱が多数を占めたことから、貿易の利益の縮小やEU域内からの労働力の流入減等の悪影響が経済に及ぶことが懸念された。これに対応するために企業部門の生産性向上が急務となり、先端的ベンチャー企業の政策支援の効率化に加えて、既存の低生産性企業の底上げへと中小企業政策の重心が移っている。
- その理由は、生産性向上に対する意識が薄い一部の中小企業(ダチョウ企業)の経営者に「気づき」をもたらし、ITの活用促進と大企業で有効性が検証されている経営慣行(リーダーシップ等)の導入を促して生産性向上の必要性を認識する企業(カササギ企業)に一社でも多く変身させることが、国全体の生産性向上に必要と政府・大企業が考えたためである。
- そこで英国政府は有効な政策の開発を目的とする産学官連携プロジェクトを支援するためにビジネスベーシック・プログラム(BBP)を行っており、中小企業の生産性向上に有効な政策を研究する多数のプロジェクトが実施されている。その大半が行動経済学の「ナッジ理論」を援用しており、財政コストが高い政策で中小企業を直接的・経済的に支援するよりも、個々の企業が「気づき」を得て自発的に望ましい行動を取るような環境を低コストで整備することを目指している。こうしたスタンスは日本の当局にとっても重要であり、中小企業にも自発的に支援を探索・利活用する姿勢が求められる。
- 日英の観光振興政策を見ると概ね同様の活動を行っている。ただ、ITと経営慣行の導入(BBPの目標)の支援が、日本の支援機関の取り組みでは管轄地域の全中小企業に広がるかどうかが分かりにくい。有効な支援が全ての中小企業に届き、生産性向上の必要性への「気づき」を経営者と従業員に及ぼす政策的取り組みも必要と考えられる。