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調査研究論文の要旨

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中小企業の財務動向の変遷

  • 本論文は、中小企業の財務構造について分析したものである。前回(2011年度)の自主研究では1990年代と2000年代に分けて分析したが、今回は主に2000年代と2010年代を比較した。分析した財務指標は、「収益性」、「安全性」、「成長性」、「健全性」、「生産性」、「借入債務償還能力」などである。
  • 各指標の動きをみると、「収益性」は1990年代に悪化したが、2000年代には改善に向かい、2010年代にはさらに改善が進んだ。しかし大企業と中小企業との格差はやや拡大気味である。「安全性」は各項目の中で中小企業が2000年代から2010年代にかけて最も改善がみられる項目である。特に自己資本比率が大きく改善している。「成長性」は、2000年代においては、わが国経済がゼロ成長に陥ったという環境下、中小企業、大企業ともに低迷気味であったが、2010年代には改善に向かった。なお2000年代、売上が伸び悩む中で、上記のように収益性は改善している。これは、この間の中小企業の経営努力によるともいえるが、一方で超低金利状態が続き金利負担が軽減した時期でもあった。「借入債務償還能力」も改善した。中小企業のキャッシュフローは大きく増加し、借入債務償還年数は低下が続いている。
  • 最後に「生産性」であるが、中小企業の労働生産性は2000年代に悪化し、2010年代にはやや改善したものの、まだ1990年代の水準には戻っていない。労働生産性を分解すると、中小企業は付加価値率が改善傾向にある一方、資本装備率はやや低迷状態にある。また、2010年代には大企業の設備投資効率が上昇に転じたのに対し、中小企業は上昇していない。設備年齢(ビンテージ)にも格差がある。なお、全要索生産性は 2010年代、以前よりも水準が低くなっており、全要素生産性の足取りは中小企業、大企業ともに芳しくない。
  • 以上から 、中小企業の財務構造については、2000年代はいわば病気の治療の時期、2010年代は治癒して成長に向かった時期といえるのではないか。大企業との格差は依然として残っているものの、中小企業は多くの財務指標で改善が続いている。中にはバプル期の1980年代を超えてきたものもある。さらに企業を4つの規模(中小企業(小)・(中)、大企業(中)・(大))に分けると、中小企業(中)が大企業(中)に追いついてきた指標や、中小企業(小)も改善してきたことを示す指標がみられるようになってきた。
  • 中小企業は全体として企業数が減少してきており、洵汰が進んだことも背景にあるが、この間、いわば生き残ってきたともいえる中小企業は、なお一部で課題を残しているとはいえ、相応の体力を有していると思われる。2010年代末には景気後退期に入り、2020年にはコロナ禍に見舞われるなど、中小企業は試練の時期を迎えているが、2010年代に蓄えた経営体力や政策支援などによりこれを乗り越えていくことを期待したい。

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